とある酒場にて……
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ロッシュ | さっきは盗賊どもを追い払ってくれて、助かったぜ。あの辺には時々来ているから、多少危険だって事は分かっているんだがな。 |
ラファル | いや、大したことじゃないさ。それよりも、あの場所……荒廃していて治安が悪そうだったけど、時々行き来しているって事は、何かあるのか? |
ロッシュ | あぁ。俺の古い知り合い達が暮らしているから、少し会って来た。……俺も、あの辺に住んでたんだ。盗みとかしながらな。 |
ラファル | ! じゃあ、君もあの辺の窃盗グループの一人だと言うのか!? |
ロッシュ | あぁ……。あの辺は所謂、貧民窟だ。あの地域に住んでいる連中は皆、仕事にありつけず、貧困に喘ぎながら暮らしている。俺もその一人だった。 |
ラファル | …… |
ロッシュ | そんな連中が生き延びるには、盗みを働くしかない……。街で盗みを働いて衛兵に捕まった奴は処刑されるし、窃盗グループ同士で盗品を奪い合う争いで死ぬ奴も居た。 |
ラファル | 随分と、苦労してきたんだね……。 |
ロッシュ | おっ?意外だな。騎士のお前のことだから、盗みをやっていた俺を軽蔑すると思ったんだが。 |
ラファル | ここまで、一緒に旅をしてきたけど、君には色々と助けられているからね。驚いて、それどころじゃなかったよ。それよりも、軽蔑されると思いながら、よく私にそんなことを……。 |
ロッシュ | だな……。酒が入ると余計なことを喋ってしまう。 |
ラファル | それで、貧民窟の盗賊だった君が、どうやってノエグヌドの冒険者に? |
ロッシュ | 流石にあんな生活には嫌気が差していてな。昔から金を貯めていた訳だ。で、時が来たらノエグヌドに渡る。けど、その後もまた大変だったんだよな。 |
ラファル | やっぱり、船での長旅となると船酔いか。 |
ロッシュ | お前じゃないんだから……。冒険者ギルドに加入するための試験だよ。力量だとか、道具や一般的な植物とかの知識があるかとか、そんな事を計るんだ。 |
ラファル | あぁ、なるほどね。それでも、ギルドに入れたのなら、大したものだよ。 |
ロッシュ | ……試験に通るまで、かなり掛かったぜ?何度か落ちてたから、その辺の密林で狩りを覚えて食いつないだ。そう言う生活をしている内に、植物や野獣の知識も養えたお陰で入れたけどな。 |
ラファル | やっぱり、そう簡単にはいかなかったのか……。 |
ロッシュ | そう言うことだ。それでも、グノーツに居た頃に比べれば、マシな生活だったよ。衛兵なんて、グノーツじゃ厄介だった。けど、向こうでは密林を探索している衛兵が居るおかげで、密林内で野獣に襲われても、衛兵が野獣を追い払ってくれてた。 |
ラファル | そうか。ノエグヌドでは、浮浪者と冒険者、冒険希望者の区別なんてつかない。だから、人が野獣に襲われていれば、無条件で助けるのか。 |
ロッシュ | そう言うことだったのか……。てっきり、グノーツの衛兵が街の外で部外者がどんな目に遭おうと関係ない顔をする薄情な連中なだけなのかと思ってたよ。ノエグヌド以外はグノーツとそんなに変わらないのか……。 |
ラファル | いや、エクナの騎士は領内で山賊に襲われている旅人とかを見れば、街の外でも助ける。もっとも、周辺の村の治安のためでもあるんだけど……。 |
ロッシュ | エクナか……悪くないかもな。あの国では一応、街の中とかには入れるんだよな。多少、衛兵には目を付けられるけど。 |
ラファル | そうだね。街は衛兵が見回っていて、いざと言う時も、翼竜騎士団が早く駆けつけてくれる。それで多少、部外者が何かをしても対応しやすいから、ノエグヌドでの活躍ぶりもあって、冒険者を街に入れずに追い返すと言うことは殆ど無いんだ。 |
ロッシュ | ノエグヌドの迷宮を調べつくせたら、エクナに行くことも考えてみるとするか。けど、古巣の連中の居るグノーツとは遠いな。やっぱ、イラネクレムで傭兵やるか……。 |
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さっきから、話を聞いてたが、あんたは傭兵には向いてないと思うぜ? |
ロッシュ | どう言うことだよ、オッサン!? |
ラファル | 冒険者だった彼は、昔から傭兵としての訓練を受けている人にはどうしても劣る……と言うことかな。 |
酒場の主人 |
それもある。だが、もっと本質的なことだ。戦闘で稼いでいる以上は戦闘能力も大事だが、怪我で戦えなくなっちまったら話にならん。それなら、自分の身を 守る為の判断力だって必要になる。冒険者をやっていたなら、その辺は大丈夫としよう。だが問題はここからだ。傭兵ってのは、雇われだ。つまり、雇われる場 所によっては、前に組んだ所と敵対する事になっちまうし、傭兵仲間同士で戦うことだってある。昨日まで、仲良くしていた仲間と剣を交えたりするんだぜ? |
ラファル | そうか!今は、私たちはこうして仲良く飲んでいるけど、ロッシュが傭兵になって、エクナと敵対する勢力に雇われたりしたら……。 |
酒場の主人 |
気づいたか。そう言う事だ。 |
ロッシュ |
……悪いけど俺は、ラファルを攻撃するぜ? |
ラファル | ……本気で言っているのかい? |
ロッシュ | あぁ……。今もこうやって、古巣の仲間に会って、物を恵んでいる。今までに苦を共にした連中の為だ……。 |
ラファル | 分かった……。私も騎士としてエクナの民を守っていることに誇りを持っている……。君と対峙した時が、私たちの縁の終わりだ。 |
ラファル, |
…… |